抱っこの時間
■「お母さん、今日は本当に最高の日だったの!」。父親と保育園から帰ってきた娘が、私の顔を見るなり言った。娘の保育園では給食当番(配膳の仕事)があって、我が家でも「ちまっとカフェ」を経営する彼女はその仕事が大好きなのだ。「ああ、今日はお当番だったもんね。上手くできた?」「もちろんだよ!」彼女はいつもより声を張り上げて、今日一日がどんなに素晴らしかったかを語り始めた。■その顔を見ていて「?」と思う。なんだか泣きはらしたような目をしている。「もしかして、今日泣いた?」私が聞くと、不自然に大げさな身振りでしゃべっていた彼女の表情が、一瞬ドキンとしているのがわかった。「いいんだよ、本当のこと話してくれれば。人生、楽しい日もあれば、楽しくない日もあるんだから」と言うと、彼女がポツリとつぶやいた。「今日は、本当に、ほんとーにイヤな日だったんだよ・・・」と。聞けば、張り切っていたお当番で、どうやらスープをこぼしたか何か、失敗をしてしまったらしい。一緒にお当番をやっていた女の子と二人、泣いてしまったのだという。■ああ、もう彼女は本当に赤ちゃんなんかじゃないのだと、なんだかこちらが泣きそうになってしまった。「なんだ、そんなことだったのか。ほら、おいで!」と両手を広げると、娘は嬉しそうな顔をして私に抱っこされた。17キロ。もう重いんだよ。こ、腰が・・・■抱っこがいよいよキツくなる5歳頃が、ちょうど子供が自立する第一歩の時期なのだ。抱っこが続いた赤ちゃんの頃は、例に漏れず腱鞘炎で手首を傷め、「ピアニストとしては致命傷だ・・」なんて悩んだ時期もあったけれど、その時期は気づけば過ぎ去ってしまうのだもの。抱っこしてあげられる時に、思いっきり抱っこしてあげよう。もうすぐその時期は終わりかけているけれど、神様あと少しだけ。この腰が耐えられる限り、お母さんもがんばるよ。
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