風船おじさんとピアノ
■定期的に「そういえば、あの人どうなったんだろう?」
と思い出す人がいる。それは、風船おじさん。
もう10年くらい前に、「それ絶対ムリだって!」
という世間の言葉に背を向けて、心許ない風船につけた桶?
に乗って、アメリカに向かって飛んでいってしまった人。
確かその前にも、テスト飛行でどこかの民家に墜落して
騒ぎになっていた。
彼のことをなんとなく思い出すのは、
その本業が「ピアノ調律師」だったということが大きいと思う。
自分で調律までする某巨匠でもない限り、
私たちピアノを弾く人間が大変お世話になっている方たちだ。
■今まで出会ってきた(特にCD録音時にお世話になった)調律師は、
皆さん音楽家以上に個性的で印象に残る方たちばかりだった。
一台のピアノを、まるで我が子のように愛し育て、
それを弾く私に、ピアノの個性や癖をとても丁寧に教えてくれた。
だから私は、彼らが知っているそのピアノの一番いい音を出せるように、
何よりもそれを大事に弾いた。だって「大切なお子さん」をお預かりしているのだもの。
■昨年、実家にあるYAMAHAが輸出用に作った70年代スピネットも、
いつもお世話になっているピアノ工房に入院した。
数年前に偶然、ボロボロの状態で出会ったスピネット。
このピアノは調律に特別な技術が必要で、若い調律師さんに至っては触ったこともない、
ということを手に入れてから知った。
最近は華やかで軽い音のピアノが多いのだけど、
個人的には70年代の落ち着いた音が好き。
鍵盤の材質も明らかに違うし、丁寧に扱われたピアノの音からは愛情に満ちた音がする。
■うちのスピネットも信頼できる工房で見事に命を吹き返し、
当時の優しい音を取り戻して帰ってきた。
それまでは辛い人生だったみたいだけど、
腕の良いお父さんに出会えて本当によかったね、と思う。
■好きな本に「パリ左岸のピアノ工房」という本がある。
ここに出てくる工房主やアル中の調律師などなど。
やっぱり皆さん強烈な個性の持ち主で、
それでいてピアノを愛する心は深い。
ピアニストとはまた違った角度からピアノを見つめ、愛している人たち。
一匹狼が多い調律師さんはどこか謎めいていて、興味がつきない。
ついでに風船おじさんも、今もきっとどこかで生きてるような気がしてならない。
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パリ左岸のピアノ工房 著者:T.E. カーハート |
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