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2008年9月 8日 (月)

スーホの白い馬

スーホの白い馬 スーホの白い馬

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■楽器で生きものの音を奏でることがありますが、生き物がそのまま楽器になってしまうこともあります。たとえば南米の弦楽器・チャランゴ。木製の他に、共鳴部分がアルマジロで作られたものがあって、生々しい甲羅にはギョっとします(剥製が大嫌いなので ^^;)。もっと恐ろしいのは、最近よく見かけるパチカ。あれはアフリカの楽器ですが、その昔チベット方面では男女の赤ちゃんの頭蓋骨を紐でつないで鳴らす似たような楽器があったとか。アメリカン・クラッカー(爆発的に流行って、禁止になった70年代のおもちゃ)のようにぶつかり合う小さな頭蓋骨・・・。音を想像するのも躊躇します。■身近なところでは、髭や尻尾の毛や骨を使って楽器の一部に使ったり。馬の尻尾はヴァイオリンの弓でもおなじみです。ネコの皮を使った三味線や、蛇の皮を使った三線も。あとは角笛とか、ほら貝とか。造形の美しさも見逃せません。

■ネックの先に馬の頭が彫られたモンゴルの二弦楽器・馬頭琴。その美しい姿や音色にはファンも多いですが、この楽器にまつわる民話もいくつかあるようです。日本では何と言っても「スーホの白い馬」。大切に飼っていた一頭の白い馬が、ある出来事をきっかけに悲しい死を遂げてしまう。スーホは弔いの気持をこめて、馬の亡骸で作った楽器で美しい音楽を奏でます。■この話を読むたびに、基本的に「そこにあるものを弾く」ピアニストは嫉妬します。メカニックの結晶として「楽器の王様」と呼ばれてきた西洋楽器・ピアノ。はたしてピアニストにとって、スーホが馬頭琴を作り奏でた時のような感覚は、まったく別世界の話なのでしょうか。

■メカニックなだけでなく、今やパソコンの端末にもなるキーボードたち。指先の音楽の進化に、演奏家の心は置き去りにされそうになる。だからこそ、スーホのような演奏家に少しでも近づきたいと思うのです。私の愛する音楽に王様はいりません。特に繊細な民族楽器と対峙するときは、自分は「象遣い」のようだと思います。他の楽器を踏み潰さないように、脅かさないように・・・。お釈迦様(音楽)を乗せた白い象になりましょう、と。そして条件が許す限りアコースティックピアノを弾きたいと思います。見た目は同じでも、1台として同じ状態、同じ音のする楽器はない。手仕事のピアノも、実は生きものなのです。

**********(C)2008 Yuko Sasama****************************

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