タケノコ
水と氷を張ったステンレスの容器の中に、
ボイルされた新鮮なタケノコが入っている。
前を通りかかった小さな女の子が、
春キャベツの並ぶ棚を見ていた
母親にむかって叫んだ。
「これ、生きてるの??」
まだ生きてるよ、きっと。
心の中で、私が返す。
子供の頃に住んでいた東京郊外は、
あちこちの山が切り崩されて家が建てられていたけれど、
まだ大きな竹やぶも残っていた。
3年生くらいのある春の日、ともだち4、5人と竹やぶを通りかかると、
タケノコがにょきにょき顔を出しているのが見えた。
思わず(ほとんど本能的に)、みんなで一斉に竹やぶに入って、
その大きくて太いタケノコを何本か引っこ抜いた。
何のために?
そこに、タケノコがあったから・・・。
赤ん坊くらいのずっしり大きなタケノコを、
ひとり1、2本も抱えて竹やぶを出ると、
誰かが振り返りざまに、ひとつのたて看板を見つけた。
「タケノコ取るな」
たった今までの収穫の高揚感はどこへやら、
みんな一瞬で凍りついた。
そしてなんだか急に怖くなって、でもタケノコは持ったまま、
その場を走り出した。
たくさん、たくさん走って、でも家に持って帰ると怒られそうで、
そのままみんなで近くの空き地に、
タケノコをこっそり置いてきたのを覚えている。
今はその場所は大きな竹やぶに・・・・
なってはいなくて、どこにでもある住宅地になっている。
この季節タケノコを見ると、
かならずあの時の高揚感と罪悪感を思い出して、
なんとなく胸がチクチクする。
そう言えば、今年はまだ食べてないなあ。
今夜はタケノコご飯にしようか。
そして竹やぶの地主さん、今さらながら、ごめんなさい。
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