朱花(はねづ)の月
中学高校と修学旅行は京都・奈良だった。
東京郊外の新興住宅地に子供が爆発的に増えている頃で(確か11クラス)、
旅行の予算も無かったのだろう。
その後、京都は何度も足を運んでいるのに、
奈良はその時の2回だけ。
けれども強烈に印象に残っているのは法隆寺の百済観音と、自転車で一周した明日香村の澄んだ空気。
そう、どちらも奈良。
そしていつでも心のどこかで、また奈良に行きたいと思う自分がいる。
私は河瀬直美監督が撮る奈良が好きだ。
奈良の森の深い緑や、古来からつづく深遠な空気を、
皮膚感覚で映像に捕らえることの出来る世界で唯一の監督。
彼女の撮る緑色はとにかく美しい。
そして今回は朱色。
紅花やくちなしの赤は、まさに血の色。
赤と緑が織り成す複雑な男女の物語には、暗示的に血の匂いがつきまとい、
そしてある意味’約束された’結末を迎える。
一見ほっこり雑誌にも登場しそうな爽やかな光と、それに対比される闇。
一筋縄ではいかない心の機微が、時空を越えて細部に織り交ぜられている。
万葉集の歌に思いを馳せながら、
やっぱり男と女は永遠にわかりあえないと思ってみたり、みなかったり。
そして何より驚いたのは、
主人公が自転車で駆け抜ける明日香村が、
十代の頃に自分が見た風景と何ひとつ変わっていなかったこと。
いま、自分をとりまく世界はこんなにも大きく変わってしまったのに、
あの場所は古来から変わらずに、今日も存在する。
その尊さと悠久の時の流れに、どこかほっとする自分がいた。
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