空耳をつくる人
ずっと「肩書」を探しているような気がする。自治体などで講師をお引き受けすることが徐々に増えてきたので肩書を求められることも多い。「ササマユウコ」だけでは許されず、時に「なぜ名前が‘カタカナ’なのか」と高齢の方に質問されたりもする。この質問は想定外だった。(ちなみに理由は簡単で、まずアメリカの会社と「Yuko Sasama」として契約したので、私のアーティスト名は単なる「オト」として存在しているからであるが)。
「ピアニスト」という肩書は現在は使用していない。ピアノも弾くけれど最も大きな括りでの「音楽家」と、芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表を名乗っている。ここでの「オンガク」は概念や哲学としての「音楽」である。サウンドスケープや宇宙の音楽(ムジカ・ムンダーナ)という「考え方」を紹介する役割だと思っている。後者は「社会」を意識した時に使う。しかし人前で口にするたびに舌を噛みそうになるので、いずれ短くしたいと思っている。この5年間の所属は、大学研究室だったり地方公務員だったりと、そちらの肩書で名刺を渡すこともあった。しかし「実は音楽家なんです」と付け加えると、目の前にいる人がみんな(本当に例外なくみんな!!)「ほっ」とした笑顔になるので、なんとなく私はそういう役割なんだなと思っている。反面、肩書(所属)によって自分の印象が左右される社会を不思議に思う。私の中身は何も変わっていないし、私は私なのだから。本当は名前だっていらないのかもしれない。
ところで、先週は「空耳図書館ディレクター」としてワークショップを主催した。実はこの肩書はとても気に入っている。自分の肩書を「気に入った」経験は人生初とも思える。そして自分の音楽家としての仕事は「空耳をつくる」ことにあるのだと強い自覚を持つようになった。肩書という外側から自分の内側が固まっていくこともあるのだなと思う。
「空耳」とは「想定外をきく力」だと自分なりに定義している。それは「耳の想像力」だ。「きく」ことは実際の「聴覚」だけでなく、先日ご紹介した聾者の描く音楽ドキュメンタリー『LISTEN』のように、自然や他者から何かを「感じ取れる力=センス・オブ・ワンダー」まで含まれる。身体、五感、魂、そのすべてを「きく」。そこに感じ取れる「オト」のことを、実際に「きこえる/きこえない」に関係なく「空耳」と呼びたい。戦後、「蓮のひらく音(幽音)」を信じる日本人の体質を戦争の反省から厳しく非難した科学者・大賀博士の見解は一方の正論だとも思うが、今の時代は反対に科学の想定外を「きく」ことから考えたいと思う。
気づけば今年の春は「空耳企画」がつづく。詳細はコネクトのサイトやFBでご紹介しているので、ご興味のある方はぜひ足を運んで頂ければうれしいです。5月には『LISTEN』の監督おふたりとのトークも予定されています。こちらも楽しみ。
〇3月20日(日・春分の日)
『空耳図書館のはるやすみ~きこえる?はるのおと』 終了しました
〇4月1日(金)~17日(日) 『ホーム/アンド/アウェイ』@アートラボはしもと
女子美術大学大学院修了生アート活動グループ「泥沼コミュニティ」の活動報告会
路上観察学会分科会メンバーとして
「はしもとの空耳」サウンド・インスタレーション(西郷タケル×ササマユウコ)
ZINE配布(編集:鈴木健介、山内健司、ササマユウコ)
4月3日(日)14時~ 路上観察学会分科会メンバー×泥沼コラボトーク
出演:西郷タケル、ササマユウコ、鈴木健介、山内健司
〇4月9日(土) 18時~20時
音楽×弘前の哲学カフェ『‘きこえない音’は存在するか?~花のひらく音をきく」
弘前大学今田匡彦教授、ストリングラフィー(鈴木モモ)の演奏とともに。
進行:ササマユウコ
〇4月12日 「キクミミ研究会~身体と音の即興的対話を考える」 新井英夫×ササマユウコ
〇4月27日 アートミーツケア学会青空委員会
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