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2016年6月19日 (日)

映画『FAKE』を観て

Fake_2

聾者(まったくきこえない耳を持つ人たち)の音楽を描いた『LISTEN』と同時期の公開となった、こちらも話題作『FAKE』を観ました。実は、一連の’事件’については記者会見も含めいちども報道を観たことが無かったので、純粋に「音楽とは」「きくとは」を問う作品として向き合いました。

作品は人間ドキュメンタリーとしても非常に興味深く、被写体であるS氏(夫妻)を通して見えてくる「メディア社会」の歪みを実感する内容だったと思います。さらに、篠原有司男夫妻の『キューティ&ボクサー』やアート収集家夫妻『ハーブ&ドロシー』のような、芸術をめぐる風変りな夫婦のドキュメンタリーとしても楽しめる(そう、意外にも’楽しめる’要素が各所にある)。ただしそこには「FAKE」というキーワードが通奏低音として流れているわけです。

一方で「音楽」や「きく」に焦点を当てて観ると、とても一言ではまとまらないモヤモヤが残ります。なぜならそこには「正解」が無いからです。ゴーストライターN氏の存在も視点を変えれば「スタッフ」と言えなくもない。仲間のアイデアを「編集」して自分の作品として世に出す「作家」は'聴者の世界'には普通に存在しますし、これが彼の「作曲スタイル」だと言えてしまえないこともない。そもそも、そこに「白黒」をつけるスタンスでは撮られていないのですから「答え」は観る側に委ねられているとも言える。

ただひとつだけ「確か」なのは、難聴者であるS氏が「聾者」だと自分や社会を偽ったことです。これは明らかに「罪」である。しかし彼に「聾」という物語を求めたのも、もしかしたら世間なのかもしれないというモヤモヤも相変わらず残る。この映画の後にNHKのドキュメンタリーを観ましたが、そこには明らかに「聾者の絶対音感」という作り手の’期待’があり、それに応えようとしている彼の姿も映しだされている。ただし、ドキュメンタリーに登場した彼を慕う若者たちの存在については映画では一切触れられておらず、実はS氏が誰よりも謝罪しなければならなかった相手はあの彼女たちだったのではと思うのですが、実際の関係性も含めそこは闇の中です。

本来ならば、芸術は障害の前にあっても平等に評価されるものです。なぜなら障害の有無に関わらず、いちど出してしまった「音」はどうにも嘘がつけないからです。そこに付加価値としての「物語」を欲してしまう。これは「受け手側」の問題でもあるのです。そうした「芸術の不平等性、残酷性、そして純粋性」にも触れながら、その魔力に囚われてしまった人間たちの悲喜劇を描いているとも言えます。何より「絶対音感」や「五線譜」という西洋音楽の価値観、音楽的「才能」をどう捉えるかによって「彼らの住む世界」の観え方も大きく変わってくる(これ以上言うとネタバレになるのでやめます)。
結局、森監督がこの作品で提示したのは「環世界」なのだと思います。実際に関連記事を探してみると、監督は「ユクスキュルに影響を受けている」という一節に出会いました。まさに「耳」から捉えた世界は千差万別だということです。他者の耳を共有するには「想像力」が欠かせない。そもそも「きこえる/きこえない」の境界線を乗り越えようとせずに、「きこえる」世界の’常識’だけでこの騒動を判断してよいのかという、受け手側への問いかけでもあると思いました。

一方、この映画を「社会派」として観るならば、受け手の「メディア・リテラシー」に対しても一石を投じたのだと思いました。ある’事件’が起きたときに、主人公を記者会見に引っ張り出し「嘘つき」と糾弾することは簡単です。しかし、S氏が世に出るきっかけとなったドキュメンタリーの作り方には音楽的な「つっこみどころ」も多々ある。そこを検証せずに「鵜呑み」にした受け手には、もちろん作り手には何も問題はなかったかと。音楽家に限らず、科学者、政治家、アイドル、企業人トップ、今や一般人までが、日々テレビの中で「謝罪」を繰り返している社会こそが「FAKE」ではないのか。そんな監督の声がきこえてくる気がしました。

どちらにしても「FAKE」は、本当の聾者(という言い方は失礼ではないか・・)の映画『LISTEN』と併せて、ぜひ観て頂きたい作品だと思いました。何が本物で、何が嘘か。音楽とは何か、何が音楽か。その問いと存分に向き合える、実に対照的な二本の「きく」映画でした。
(ササマユウコ記)

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