「World Listening Day2016」に寄せて
7月18日はカナダの作曲家マリー・シェーファの誕生日にちなんで、「World Listening Day」が設立されています(シェーファーは今年83歳)。今でこそ学際的に、様々な領域で使われる「サウンドスケープ」という考え方(コトバ)ですが、そもそもはシェーファーを中心に、世界の音環境を調査する「World Soundscape Project」という環境学的なアプローチからスタートしています。しかしこれにも経緯があって、大学の教員となったシェーファー自身が伝統的なクラシック音楽教育に馴染まず、「自分の存在を正当化するため」(本人弁 『モア・ザン・ミュージック』若尾裕著より)にコミュニケーション学科に移り、その流れでこのプロジェクトが必然的に生まれたのでした。まさに瓢箪から駒、というか、「音楽教育は全的教育だ」と考えるシェーファーの「柔らかに生きる力」をあらためて感じるエピソードです。しかもそれが40年近く前だったことを考えると、当時は今以上にヴィルトーゾ教育が主流だったはずの音楽教育を飛び出し、「音響コミュニケーション」を掲げ、サウンドスケープから音響生態学(Sound Ecology)を学際的に提唱したシェーファーは、当時最先端の考えを持つ音楽教育者だったとも言えます。このサウンドスケープ論は「社会福祉」にもつながると予見されていて、音楽家シェーファーの社会とつながる感覚は、今の時代の音楽家にこそ学ぶものが多いと感じています。ちなみに40年前の(当時の)アカデミズムでは、どこへ行っても氏の考えは‘嘲笑された’と本人が回想しています。
その後「サウンドスケープ」、あるいはそれを学ぶ「サウンド・エデュケーション」は、音楽教育を始めとする芸術教育、哲学、環境学、コミュニケーション学、福祉学、建築学、都市デザイン・・と、さまざまな領域に広がり、その流れは現在まで続いています。ちなみに私(ササマユウコ)は、コネクトの活動をサウンドスケープ哲学実践の場として、「きく」を共通キーワードに持つ臨床哲学との親和性にも着目して研究しています。内と外をつなぐ柔らかな発想です。
まさに耳から捉える世界は多面体なのでした。
■プロジェクトの関連ページはこちらです。
●コネクトでの関連記事はこちらです。
| 固定リンク
「センス・オブ・ワンダー」カテゴリの記事
- 12月の予定(2019.11.18)
- 10月の空耳図書館(2019.09.28)
- 聾CODA聴②「境界ワークショップ研究会」のお知らせ(9月9日、12月27日)(2019.08.21)
- ササマユウコ活動情報(2019.03.28)
- 哲学のこと 『世界の調律~サウンドスケープとは何か』(2019.01.14)
「音の記憶/サウンドスケープ」カテゴリの記事
- 12月の予定(2019.11.18)
- 11月の空耳図書館(2019.10.29)
- 10月の空耳図書館(2019.09.28)
- 空耳図書館おんがくしつ♪「おやこの時間」8月16日開催@T-KIDS柏の葉(T-SITE蔦屋書店内)(2019.07.19)
- 【耳の哲学】最期のオンガクとは何か、を考えるということ。(2019.07.11)
「サウンド・エデュケーション(M.シェーファー関連)」カテゴリの記事
- 12月の予定(2019.11.18)
- 11月の空耳図書館(2019.10.29)
- 10月の空耳図書館(2019.09.28)
- 聾CODA聴②「境界ワークショップ研究会」のお知らせ(9月9日、12月27日)(2019.08.21)
- 参加者募集中!「空耳図書館おんがくしつ♪おやこの時間」を開催します。(2019.08.05)
最近のコメント