ピアノのこと
①今年いちばん印象に残ったピアノ。様々な事情から親と離れて暮らす障害のある子供たちの施設、その食堂の片隅にあった。今では珍しい象牙の鍵盤で、丁寧に時間を重ねた丸くて優しい音がした。ピアノの前にいくと高校生の男の子がやってきて、ベートーベン「悲愴」第2楽章の頭を弾いてくれた。「好きな曲?」ときくと、はにかみながら「うん」と頷いた。彼はとても耳がよく、記憶から旋律を紡いでいた。おそらく緊張で室内を走り回っていた背の高い男の子がいた。その子がある瞬間、ピアノの傍に静かに腰を降ろした。彼は床に体育座りをして空(くう)を見つめたまま、静かな横顔でこちらの音に耳を傾けていた。彼は「何を」きいていたのだろう?言語のやりとりは困難だったので、今も謎のままだ。もしかしたら魔法のピアノだったのかもしれない。子どもたちはみんな、このピアノが大好きだった。
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