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2017年7月29日 (土)

大丈夫?赤ちゃんの耳①

Hana_letter(このページを訪ねて下さったママ・パパたちへ)
この記事は社会的な状況の変化を踏まえながら、時々加筆・訂正をしています。
【初回掲載】2014年
【最新】2017年7月29日

【イベント情報】
2019年8月16日「空耳図書館おんがくしつ♪ちいさな音と絵本の森」@T-Site 柏の葉
蔦屋書店の絵本の森の中でひっそりと存在する「文字のない絵本」を取り上げ、「音」を切り口に想像力を使って絵本の世界をいっしょに楽しみましょう。大きな音が苦手なお子さまも安心してご参加ください。
進行役:ササマユウコ(音楽家)、三宅博子(音楽療法士)
詳細・ご予約はこちらのページから 午前(3か月~1歳半) 午後(幼児~小学校低学年)

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私は耳鼻科のお医者さんではありませんが、今から40年前に「耳を傷つけてはだめ」と説いたカナダの作曲家/M.シェーファーの教えを子育て世代にも知っていただきたくて、サウンド・エデュケーションのワークショップに入る前に、特に小さなお子様を持つママパパ、そして子供たちに「耳の大切さ」についてお話させていただいてます。

以前こちらでもご紹介した「蝸牛」の絵や本物の貝殻を見て頂きながら、耳の中にも小さな貝(自然)があるんだよ、
耳はとっても我慢づよくて普段は何も言わないけれど、
あんまり大きな音をイヤフォンなんかでずっと聞いていると、
ある日突然「もう疲れた・・」って、
音をきくのをやめてしまうこともあるんだよ、とか。。「想像する力」のお手伝いをします。

しかし、そうやって言葉で説明できる世代はまだいいのです。
今すごく気になっているのが「赤ちゃんの耳」。

最近は、野外フェスやコンサートなど、いわゆる「大人の音の場所」にも子連れの方が増えてきました。もちろん、親子で音楽を楽しむことは素敵です。
ただ、重低音がきつめの音楽や、BGMがあふれるファッションビル、音のカオスのゲームセンター、、大人の耳でも疲れてしまうような「スパイシーな音」が溢れた中でベビーカーを見かけると、「赤ちゃんの耳、大丈夫かな。。」と心配になります。

「赤ちゃんは自分が興味のある音しか聴いていないし、
うるさい音でも好きならばストレスにならない」、
という内容の記事をご覧になったことはないでしょうか?
これは「都合耳」という考え方です。
そしてこのお話は、「耳」ではなくて赤ちゃんの「脳」や「心」の問題。
鼓膜や内耳といった「機能」のお話ではありません。
ここを誤解すると大変。
しかも医療や心理学の専門分野でも、まだまだこれからの研究分野です。
ストレスフルな音が、赤ちゃんにどんな影響を与えるのかは、
実はわからないことが沢山ある。
だからこそ「赤ちゃんの耳」を守ってあげるのは大人の役割なんですね。

耳には「蓋」がついていません。
見たくないものは「目を閉じる」ことができる「目」の機能とは、ここが大きく違います。
大人の耳でもライブの後に耳が「キーン」として、
なかなか元に戻らない経験をした方は沢山いらっしゃるのではないでしょうか。
スタジアム級のコンサートをするメジャー・アーティストの耳が、
実は片方難聴になってしまったお話も珍しくありません。
スタジアムのような大きな空間では自分の出した音がよく聞こえないので、
片耳にイヤフォン・モニターを入れて歌ったり演奏をします。
しかもアーティストは、普段からスタジオでヘッドフォンをしたり、
レコーディング等で大きな音を耳に入れて疲れている。
音楽家の難聴は「職業病」だと思います。

ところが赤ちゃんは、もし自分の耳が傷ついていても、
それを言葉で伝えることができません。
ママやパパが赤ちゃんの耳を傷つけてしまっていても、
それに気づくことはもっと難しいかもしれません。

音は空気の振動です。
その「揺れた空気」が耳の穴から入って「鼓膜」を揺らすと、
その振動がさらに奥にある中耳から内耳を伝わって脳に「音の情報」として伝達されます。
これが医学的な「きく」という仕組み。

ひとことで「難聴」といっても先天的、後天的、もちろん原因は様々ですが、
明らかに後天的に「音」が耳を傷つけてしまった場合、
この最初に音を受け止める「鼓膜」が何かしらのダメージを負います。
イメージとしては、大きな音がものすごい勢いで鼓膜を強く押したり揺らしたりすると、
(しかもそれをずっと続けていると)、
鼓膜も音に負けないように厚くなったり固くなったりして、
だんだん揺れなくなってしまう(音を伝えづらくしてしまう)という感じでしょうか。
もっと怖いイメージは、思いきり叩いた太鼓の皮は破けてしまう。
そういうことです。
耳をたたくことも、大きな音を聞くことも、物理的な原理は同じです。
大きな音は「聴覚(きく)」というよりも「触覚(ふれる)」に近くなります。

だから耳の中にイヤフォンを入れて音を聞くのは、
本来ならば耳の穴から入る揺れた空気ではなく、
耳の中でダイレクトに音が鼓膜に当たっている状態ですから、
特に未熟な子どもの耳がどれだけ疲れるか、想像つくでしょうか?

赤ちゃんに激辛スパイスの食べ物を与えないのは当たり前、
アルコールやポルノには年齢規制があるのも当たり前。
でも、音には何もありません。なぜでしょうか。

耳は何も言ってくれません。
だから「持ち主」がひとりひとり想像力を働かせて守るしかない。
赤ちゃんの耳の責任は、周囲の大人たちにあると考えることが大切です。
最近は子供用の耳栓や、ノイズキャンセリング機能があるイヤーマフもあるそうです。
出来ればそういうものが必要な場所には、
子供の耳が出来上がるまでは連れて行かないのが理想だと思います。
けれども、どうしても・・ということであれば、どうぞ耳を大切に。(

音楽家・芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表ササマユウコ)
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〇最近になって、ようやくこの分野の研究が進んできたようです。こちらの記事は大変興味深いので、どうぞご覧ください。保育室だけでなく、学校のBGMや子ども向けイベント、音の美術展等でも導入が望まれるサウンドスケープの視点です。(2017.7.26 毎日新聞医療プレミア編集部)
「赤ちゃん学へようこそ」 保育室が危ない!? 響きすぎる音の悪影響

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