3.11の記憶
まだ小さかった娘と二人、いつでも逃げられるようにマンションの寒い廊下にヨガマットを敷いて静かなインストだけが流される小さなラジオを傍らに、連絡のつかなくなった夫の帰りを待ちながら途方に暮れていた。スマホもSNSも無縁の生活だった。
津波の映像をテレビで見たのは夫が食料を手に戻った夜になってから。ただ画面を眺めている状況がいたたまれずラジオに切り替えると、坂本九の『見上げてごらん夜の星を』が流れてきた。今でもこの曲をきくと、ベランダから眺めた新宿の夜空を思い出す。
テレビの中に映し出されていた光景は現実のものなのだろうかと、余震の中で受け止めきれずにいた。
原発事故は2日後、食べ物をもとめて足を伸ばした夏目坂から見た銀色に光る空と、大久保通りを通り抜ける爆風のような直線的な異様な風で、報道よりも先に本能的に察知した。それからしばらくの間、夕方の空は錆びた鉄色をした不思議なかたちの雲がたくさん浮いていたし、マンションの屋上には人工的な黄色をした結晶がいくつも落ちていた。タルコフスキーの『サクリファイス』の世界に放り込まれた気分だった。
あの日から私の人生も音楽も出会う人たちも環境も思考も大きく変わった。運命とはこういう経緯を言うのかなと、今は思う。むしろ核心に近づいたのかもしれない。人生後半の分岐点となった日。
□2011年以降のササマユウコの活動です。
・協働プロジェクト「聾/聴の境界をきく~言語・非言語対話の可能性」
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