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2019年2月 1日 (金)

2011年以前の作品につきまして

2011年の東日本大震災・原発事故が大きな転機となり、それまでの演奏活動を一時休止しました。「音楽とは何か、何が音楽か」ということを、2011年秋から弘前大学大学院今田匡彦研究室と自治体生涯学習部の仕事を並行しながら、主にM.シェーファーのサウンドスケープ論を「耳の哲学」として実践的に考えてきました。2014年に相模原市立市民・大学交流センター内に芸術教育デザイン室CONNECT/コネクトを立ち上げ、即興カフェ協働プロジェクト「聾/聴の境界をきく」、空耳図書館,路上観察学会分科会等を開催しながら、学会や論考の発表も行ってきました。芸術と学術、芸術家と研究者、人と人との「境界」に生まれる可能性を信じて今も活動・発信しています。
 音楽を21世紀型のリベラルアーツとして捉え直すことで、音楽教育はもちろん、音楽家の生き方、仕事の在り方も大きく変わってくると思います。サウンドスケープ論はデュオニソス的に傾きすぎた20世紀後半の世界に対して、あえてアポロン的な音楽観を投げかけ音楽の内側から世界を変えていこうと呼びかけた、もしかしたら50年先には音楽の世界でも当たり前になっているかもしれない音楽家・シェーファーの先見の明でした。しかしその考え方(サウンドスケープ論)を紹介した『世界の調律』(平凡社)が絶版になったことは非常に残念ですし、だからこそ次世代に先人たちの仕事や哲学を繋ぎたい思っています。

 前置きが長くなりましたが、2011年以降は本当に毎日が激動で必死でした。それまでの自分の創作活動をゆっくり振り返る時間がまったくありませんでした。それは2000年のレーベル立ち上げから2011年までに出会ったアーティスト、そして応援し支えて下さった方たちの存在や御厚意に背を向けるような時間だったかもしれません。8年経った今やっと、これまでの糧を何に注いでいるのか、少しづつご理解頂けるようになってきたかなと感じています。実際に作品の著作権料は微々たるものですが現在の活動を支えています。

 2006年にNY本社のThe Orchardが東京支社を作った時に、国内インディーズ数十社に声がかかりました。そして東京からシンガポール支社へと移転になる際に、私のレーベルと大手パンクレーベル1社が契約継続となりました。そこから10年以上過ぎた今も、文字通り世界各国に配信されていることは本当に有難いと思っています(しつこいようですが、収入は微々たるものですけど)。星の数ほど生まれる作品の中で淘汰されずに残ったことが励みになります。現在はAMAZON・MP3、I Tune、Spotify等でも全作品ダウンロードが可能になっているようです。CD本体もまだAMAZON等で中古を含め入手可能です。最初のCD『青い花』を制作した1999年当時には考えつきもしなかった展開です(インターネットも無い時代だったので)。

 一連の4作品は「Peace and Quiet」というシリーズになっています。実はこの言葉はジョン・ケージ『サイレンス』そして前述のシェーファー『世界の調律』の両方に出てくる印象的な言葉でした。今聞くと、音楽そのものがとてもシンプルで短い(笑)。それは1999年から2000年頃に台頭したデジタル録音技術で効率化が進む現場、一方でどんどん複雑化し巨大化していく(身体から離れていく)音楽の在り方に違和感を持っていたからです。今思えば身の程知らず、若気の至りなのですが(苦笑)、一枚の布を丁寧に織るような「アーティスト」でありたいと思っていた頃の自分なりの小さな意思表示でした。
 作品はすべてアナログ録音(音響工房アナログ式)、演奏は真剣勝負の「一発録り」です。演奏時のピンと張りつめた空気を思い出します。何も嘘が無い。そして今からでは考えられませんが西洋楽器(ピアノ)と邦楽器とのコラボレーションには、まだ不寛容な時代でもありました。その「境界」に音楽をつくりたいと思いました。そして自分自身が幼い頃から「楽器の王様」だと思い込んでいたピアノ、平均律からの脱却も意識しました。今思えば「民主的であること」とは何か、多様性の世界とは何かを音楽(音)から学んでいた時代でした。
 気づけばYouTubeにもほぼ全作品が上がっています(どなたかの手で)。音のクオリティは悪くないので聞いて頂けると幸いです。そして、ぜひ今後は映画・映像関係者に使って頂きたいと思います。著作権フリーではなくJASRACに使用申請手続きを取って頂きますが、ぜひ事前にメールでご相談頂けましたら幸いです。
 レーベルは違いますがサウンドプロデュースと即興演奏を担当した「生きものの音」につきましても、今後はより多くの方に聴いて頂ける機会がありそうです。平成の終わり、そして21世紀の最初の20年間のふり返りもしっかりしていけたらと思っています。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 2019年2月1日 ササマユウコ

◎ササマユウコ個人サイト www.yukosasama.jimdo.com
◎BEN-TEN Records www.bentenrecords.jimdo.com

(写真左上から)Photo①Peace&QuietⅠ『青い花 aoi hana』 
 ササマユウコ(音楽・ピアノ)、坂田梁山(尺八)PPT-001 (C)2000
②Peace&QuietⅡ『空ノ耳』 ササマユウコ BTR-001 (C)2001
③Peace&QuietⅢ『月の栞』ササマユウコ・坂田梁山・石川高 BTR-002(C)2003
④『Peace&Quiet』ササマユウコ BTR-003(C)2005
⑤『Mother Songs』ササマユウコ BTR-004(C)2009 
  ※病院コンサートの人気童謡を旋律アレンジなしで演奏しています。

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